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その80年後の1876年にドイツの医師コッホは、謎の病気として恐れられた炭疽病の病原菌を発見しました。そして、その発見した炭疽菌を使ってフランスの医師パスツールは1881年に弱毒生ワクチンを世界で初めて開発しました。それから感染症を制圧するための歴史が始まりました。北里研究所創始者の医師の北里柴三郎は1889年に破傷風の純粋培養に成功し、翌年に破傷風の免疫物質である抗毒素を発見し、血清療法の基礎を築きました。1894年には香港に派遣され、そこで黒死病と恐れられていたペストからペスト菌を発見しました。他にはその門下生である志賀潔により、1897年には赤痢菌が発見されました。このように予防医学と呼べるものが始まってから、100年程しか経っていないのです。治療に関してはイギリスのフレミングが1929年に抗生物質として有名なペニシリンを発見し、10年かけてやっと精製に成功し、1940年に実用化しました。細菌感染症の治療の歴史はわずか60年しか経っていないのです。
天然痘の撲滅に貢献したウシの病気である"牛痘"は天然痘と近縁のウイルスで本来、ヒトと動物の共通感染症です。元々はネズミの感染症といわれていますが、牛痘に感染したウシは、乳房や乳頭に"痘"と呼ばれる"かさぶた"が出来ます。ヒトに感染すると3日から6日で"かさぶた"が出来ます、乳搾り職人に多いことから指や手に出ることが多く、死亡することはまれといわれています。
このようにヒトと動物の共通感染症とは、動物からヒトへ、またはヒトから動物へ、病原体を触れてうつったり(直接感染)、皮膚からうつったり(経皮感染)、くしゃみなどの飛沫でうつったり(飛沫感染)、埃などに混ざって吸い込んでうつったり(吸入感染)、飲んだり食べたりして口からうつったり(経口感染)して、体の中に侵入し、増殖して病気を起こします。予防するには、病原体が侵入しないようにすれば良い訳で、病原体の性質と感染経路を知っていればたやすく予防できます。
天然痘が根絶できたのは、天然痘はヒト以外にうつらないこと(共通感染症でない)、牛痘が種痘として使えたこと、種痘ワクチンは一度接種すれば生涯に渡って免疫を得ることが出来たこと、などの好条件があったことからこそ、可能であったといわれています。このような好条件の感染症は他には見当たらず、ビギナーズ・ラックとしかいいようがありません。
天然痘以外に撲滅に向かっている感染症は、残念ながらありません。逆に輝かしい感染症の発見の歴史とは裏腹に地球規模で見ると、天然痘撲滅宣言を出した1980年以降は、感染症は、増加傾向にあります。1980年の撲滅宣言は人類史上輝かしい功績と称えられ、これからは感染症が全て撲滅できるのではないかという期待さえ持たせましたが、翌年1981年にエイズが出現し、早くも出鼻をくじかれたのは記憶に新しいことです。不運なことにその後次々と悪性度の高い感染症が発見されました。年代別に列挙しますと、1982年にライム病(後述)、1983年に胃潰瘍のヘリコバクター菌、1985年に牛海綿状脳症(後述)、1989年にエボラ出血熱が輸入サルで死亡(後述)、1994年にヘンドラウイルス、1997年にトリインフルエンザ(後述)、1998年にニパウイルス病(後述)、1999年に西ナイルウイルスがニューヨークで猛威(後述)、2001年に牛海綿状脳症が日本で発症と主なものをあげても年代が埋まるほどです。
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